近年の生成AIブームを裏で支えているのが、LLM(大規模言語モデル)です。
ChatGPTなどの生成AIが、まるで人間と会話しているように自然な文章を作り出すのは、このLLMによるものです。しかし、「一体どういう仕組み?」と感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、LLMの仕組みや歴史、最新の主要モデル、活用事例を取り上げながら、基礎からビジネスへの応用までをわかりやすく解説します。AI初心者の方はもちろん、「LLMを自分の仕事にどう生かせるか」そんな疑問を持っている方もぜひ参考にしてください。
LLMとは?

LLMは、膨大なテキストデータ・莫大な計算量・数千億を超える設定項目(パラメーター)という、3つの「大規模さ」を持つAIのことです。
LLMを基盤とした生成AIが、言葉の並びだけでなく、文脈の流れや意味のつながりまで理解できるのは、この3つの要素が互いに連携し、学習精度を高めているためなのです。
LLM:「Large Language Model(大規模言語モデル)」の略
LLMの歴史
初期のLLMは、1997年のLSTMに代表されるリカレント・ネットワーク(RNN)を基盤としていました。しかし、このRNNは文章を順序立てて一つずつ処理するため計算に時間がかかり、大規模化が難しいという課題がありました。
転機は2017年、Googleが発表した論文「Attention Is All You Need」です。ここで提案されたトランスフォーマーにより大規模モデルの訓練が現実的になりました。トランスフォーマーは従来のRNNとは異なり、文章全体を並列で処理できるため、数千億パラメーター規模の大規模モデルの訓練が可能になったのです。
このトランスフォーマーを基盤に、2018年にはBERT(双方向Transformer)やGPT(単方向自己回帰Transformer)といった現代の主要モデルが登場し、現在の生成AIブームを確立しました。
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このトランスフォーマー構造を持つAIは、PythonやKeras(TensorFlow)といったライブラリを用いたプログラミング技術によって支えられています。
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LLMの仕組み
LLMは、「次にくる言葉を確率的に予測する」という仕組みで成り立っています。
例えば、「今日は空が」と入力すると、モデルは過去に学んだ膨大な文章をもとに、「晴れている」「曇っている」など、次に続く可能性を考え、その中で最も自然な言葉を選んで文章を作っていく、という流れです。
しかし、LLMは人間のように「言葉」をそのまま扱っているわけではありません。実際には、文章を「トークナイザ」という仕組みで「今日は」「空」「が」のように分割し、それぞれを数値に変換して処理します。この数値の並び(トークン列)がモデルへの入力データです。
この仕組みを実現するため、LLMは複数の技術を組み合わせています。主な流れは以下の通りです。
- データを収集して整形する
- AIモデルに学習させる
- 言葉を数値に変換する
- 文脈を理解する
- 数値の形で出力する
- 微調整(ファインチューニング)する
①データを収集して整形する
まず、LLMの土台となる大量の文章データを収集します。ニュース記事や書籍、Webサイトなど、あらゆる情報源から数百GB~数TB規模のテキストを集めてください。
その後、広告や重複、誤情報が混じっているため、まずは不要な部分を取り除き、きれいな文章に整える作業を行います。
②AIモデルに学習させる
次は、前工程で整えられた文章データを、AIモデルに学習させましょう。整えた文章データをAIに学習させるためには、「ニューラルネットワーク」と呼ばれる、人間の脳の神経細胞のつながりを模した仕組みを用います。
ニューラルネットワークには様々なアーキテクチャがありますが、LLMでは「トランスフォーマー」という方式を使います。このトランスフォーマーの中心にあるのが、自然な文章を生成する要となる「自己注意機構(Self-Attention)」です。
「ニューラルネットワーク → トランスフォーマー → 自己注意機構 = LLMの学習要素」と覚えると良いでしょう。
③言葉を数値に変換する
続いて、文章を学習させるために、人間の言葉をコンピュータが扱える数値に変換しましょう。まず「トークン化」で文を小さな単位に分け、次に「ベクトル化」でそれぞれの単語を数値の組み合わせに変換します。
この際、意味が似ている単語同士(犬と猫など)は、数値のパターンも似てくるため、モデルは「言葉の意味の近さ」まで計算で理解できるようになります。
④文脈を理解する
次のステップでは、学習を終えたLLMが、単語の意味に加えて、文章全体の流れを理解します。例えば、質問に対する適した回答を文脈から判断し、自然で一貫した文を作るのがこの工程です。
この際、会話のトーンや文化的背景まで考慮するため、人間のような自然な会話が実現します。
⑤数値の形で出力する
LLMが導き出した答えは、まず数値の形で出力します。それを一つずつ言葉に変換し、文法や文脈の流れを整えて文章として出力する工程が「デコード」です。
このとき「KVキャッシュ」という仕組みを使い、すでに生成した部分を効率的に記憶することで、長文でも途切れず自然な文章を作ることができます。
⑥微調整(ファインチューニング)する
完成したモデルはそのままでも使えますが、分野に応じて「微調整(ファインチューニング)」を行い性能を高めていきます。このステップで、医療や法律など特定の専門分野のデータを追加学習させると、その領域に特化した回答が可能になります。
このように、LLMは複数の技術を組み合わせることで、人間のような自然な言葉のやりとりを実現しているのです。
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機械学習・生成AIとLLMの違い

機械学習と生成AI、LLMとの違いは、技術的な適用範囲です。
この3つの技術は、「機械学習 > 生成AI > LLM」という包含関係にあり、それぞれ相互に作用しながら進化しています。
詳しい違いを以下の表で見てみましょう。
| 項目 | 機械学習 | 生成AI | LLM |
| 適用範囲 | 最も広い概念 | 機械学習の一部 | 生成AIの一部 |
| 定義 | データから自動でパターンを学習する技術全般 | 新しいデータを自律的に生成するAI技術の総称 | テキスト生成に特化した大規模言語モデル |
| 学習方式 | 教師あり学習、教師なし学習、強化学習など | 教師あり学習、GANなど | 教師あり学習 |
| 主な用途 | 予測・分類・最適化など | テキスト・画像・音声・動画の生成 | 文章生成・翻訳・要約・対話など |
| 代表例 | 回帰分析、決定木、ニューラルネットワーク | GAN、VAE、Transformer系モデル | GPT、BERT、Claude |
この表からわかるように、LLMは生成AIのテキストに特化した技術です。例えば、ChatGPTの応答生成は該当しますが、Midjourneyによる画像生成は含まれません。つまり、生成AIのすべての技術にLLMが関連しているわけではないのです。
LLMの基盤である機械学習には、「教師あり学習」「教師なし学習」、そして「強化学習」があります。強化学習とは、AIが自ら試行錯誤し、最も良い結果を生む行動を学んでいく仕組みです。詳しくは以下の記事で解説しているので、合わせてご一読ください。
LLMの最新モデル一覧

現在、世界中で多くのLLMが開発されており、どのモデルを選べばいいか迷ってしまう方も多いでしょう。ここでは、ビジネスや開発でよく使われている代表的なLLMを5つ選んで、それぞれの特徴を分かりやすくご紹介します。
まずは、主要なLLMモデルの比較表をご覧ください。
| モデル名 | 開発元 | パラメーター数 | コンテキスト長 |
| Claude Sonnet 4.5 | Anthropic | 非公開 |
|
| GPT-5 | OpenAI | 非公開 | 400,000 |
| Gemini 2.5 Flash | Google DeepMind | 非公開 | 1,000,000 |
| Llama 4 Maverick | Meta | 4,000億、128エキスパート | 10,000,000 |
| DeepSeek V3.1 | DeepSeek | 6850億 | 128,000 |
Claude Sonnet 4.5
Claude Sonnet 4.5は、2025年9月にリリースされたAnthropicの最新モデルです。Anthropicは「最もインテリジェントなモデル」と位置付けており、独自のAI憲法に基づいた安全性重視の設計で、有害な出力を抑えたい方に最適です。
コード生成や複雑な推論タスクでも高い性能を発揮。プログラミング支援や文書分析など、ビジネス用途で信頼性が求められる場面に適しています。
GPT-5
2025年8月にリリースされたGPT-5は、史上最も賢く、速く、役に立つAIシステムとして話題のChatGPTの最新モデルです。コーディング、文章作成、ヘルスケアなどの分野で専門家レベルの知性を提供し、さらに、誤情報生成の低減や指示遵守能力の改善も実現しています。
GPT-5は高速応答用モデルと、専門的な深い回答が可能な「拡張推論モデル(GPT-5 thinking)」の2つを搭載。質問の複雑さに応じて最適なモデルへ自動で切り替えるリアルタイムルーター機能を備えています。
Gemini 2.5 Flash
2025年6月17日に正式リリースされたGemini 2.5 Flashは、コストと性能のバランスを追求した、実用性の高い最新モデルです。
このモデルの最大の特徴は、Flashモデルとして初めて「思考機能」を搭載した点です。これにより、AIが回答を導き出す際の思考プロセス(なぜその答えを選んだか)をユーザーが確認できるようになり、信頼性と透明性が向上しました。
Llama 4 Maverick
2025年4月5日にMeta社がリリースしたLlama 4 Maverickは、マルチモーダル対応のフラッグシップモデルです。Mixture-of-Experts(MoE)方式を採用し、高速・低コストで推論できます。
このモデルは複雑な指示や高度な画像タスクに強く、オープンソースとして無料で利用できるため、開発者や企業に人気のモデルです。
DeepSeek V3.1
2025年8月21日リリースのDeepSeek V3.1は、「思考(Think)」と「非思考(Non-Think)」の二つのモードを切り替えられる中国・DeepSeek社の最新モデルです。
このモデルは、トレーニング後にツール活用能力が向上しており、検索や推論の精度も改善。APIはAnthropic形式に対応しており、関数呼び出しやマルチステップ操作をスムーズに行えます。
LLMの活用事例
LLMは、一般企業から自治体など、様々なビジネスシーンで活用されています。ここでは5つの活用事例をピックアップし、一覧表にまとめてみました。
| 事例 | 課題 | 解決策 | 成果 |
| メルカリ | 出品商品の分類精度と人手コスト | LLM+既存MLによるハイブリッド分類 | 精度向上・分類自動化・検索効率改善 |
| サイバーエージェント | 広告テキスト作成の時間と労力 | ChatGPT連携で広告文を自動生成 | 制作時間大幅短縮・PDCA高速化 |
| 江戸川区役所 | 問い合わせ対応と文書作成の負荷 | ChatGPTを活用した対話型AI支援 | 住民対応効率化・職員業務時間削減 |
| 富士通 | 企業データの活用などの不十分 | 企業向け日本語LLM・Takane開発 | セキュアなデータ活用を実現 |
| 三井住友海上保険 | 事故対応の記録内容に時間が必要 | 音声記録のAI要約システム導入 | 対応時間短縮・業務負荷軽減 |
上記の一覧表からわかるように、LLMは、業種を越えて業務効率化に大きな成果をもたらしています。なお、富士通は自社開発のLLMシステムです。
近年、GeminiやChatGPTなどマルチモーダルに対応するモデルが飛躍的な進化をしているため、今後はさらにビジネスの現場での活用シーンが広がっていくことでしょう。
参照:メルカリ生成AI/LLM専任チームの取り組み、サイバーエージェント、江戸川区役所、富士通、三井住友海上保険
LLMについてまとめ
LLMは、人のように言葉を理解し、考え、文章を生み出す次世代のAIモデルです。膨大なテキストを学習しており、文章作成や要約、情報分析、アイデア発想など、あらゆるシーンで力を発揮します。
生成AI時代の中心技術として注目されていますが、業務に応用するためには、まずはその仕組みを正しく理解することが重要です。セミナー学習を併用すると、どのように自社のビジネスに活用するかの道筋が具体的に見えてきます。