AIによるイノベーションが次々と生み出されることで変化が絶えない昨今。そんな中「AGI」および「汎用人工知能」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
とはいえ、あまり馴染み深いワードではないことから「AIはなんとなくわかるけど、AGIというのはなんのことだろう」と疑問に思う方は少なくないでしょう。
今回の記事では、AGI(汎用人工知能)の概要からメリット・デメリット、具体例をくわしく紹介します。ひとつの「AIの未来像」として、ぜひご一読のうえ参考にしてください。
AGI(汎用人工知能)とは?
AGI(汎用人工知能)は、人間同様の幅広いタスクを遂行できる人工知能のことを指します。
いま現在急激に発展を遂げているAIは、いずれも特定のタスクに特化したものです。AGIはこれに対し、あらゆる問題を理解し解決できる柔軟性をもっています。
たとえば人間のように学習や推論、創造、計画などの認知能力を統合しつつ、未経験の状況にもそれなりに適応できるということです。これはいま現在普及しているAIではありえません。
ただ開発および実現には高い技術的ハードルがあり、倫理的・社会的な課題も含まれるため、正式に実用化されるまでには慎重な対策が必要です。
「弱いAI」と「強いAI」とは?
AGI(汎用人工知能)を解説するうえで欠かせない用語が、「弱いAI」と「強いAI」です。両者は人工知能の能力と範囲を分類する用語として用いられています。
弱いAIとは
弱いAIとは現代で普及している特定のタスクに特化したAIで、たとえば画像認識や音声アシスタント、将棋やチェスを行うロボットなどが該当します。これらは特定のタスクや問題を効率的に解決するように設計されていますが、それ以外の問題にはまったく対応できません。
強いAIとは
一方の強いAIとは、本記事で紹介しているいわゆるAGI(汎用人工知能)のことです。人間のように「自ら臨機応変に学習しながら幅広いタスクに対応できる」とされています。
これは人間の知能に限りなく近いレベルの認知能力を指し、現時点ではまだ実現されておらず、理論上の概念に留まっています。なお「弱いAI」と「強いAI」の違いについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になるのでぜひご一読ください。
AI・ANI・ASIとの違いは?
AGI(汎用人工知能)と比較される用語として、「AI」「ANI」「ASI」があります。AGIも含めた4つの違いを一覧にまとめると、以下のとおりです。
略称 | 正式名称 | 概要 | 実用化 |
AI | Artificial Intelligence | 人間の脳の知能を模したコンピューターの総称 | している |
ANI | Artificial Narrow Intelligence | 特定のジャンルやタスク(たとえばオセロや将棋など)に特化したAI | している |
AGI | Artificial General Intelligence | 人間と同等の思考や振る舞いができるAIロボット | していない |
ASI | Artificial Super Intelligence | AGIのレベルを大きく超える知能と振る舞いを実現する未来のAIロボット | していない |
AIは人間の脳や知性を汲み取ったコンピューターの「総称」なので、さまざまなシステムやロジック、アプリなど非常に幅広い意味合いで用いられます。上記で紹介している他の3つも、AIの一種であることは変わりません。
ANIとは特定のジャンルにおけるタスクを遂行できるコンピューターで、自動運転やボードゲーム、生産ロボットなどの用途で実用化されています。現代のAIはほぼすべてこれに該当するでしょう。
そしてASIとは、本記事で紹介しているAGIをも上回る知能や振る舞いができるコンピューターのことですが、現代はAGIすら現実化されていないことから、ほとんど使われることはありません。
AGI(汎用人工知能)を構築している3つの要素
AGI(汎用人工知能)は大きく以下の3つの要素が進化し、混じり合うことで実現すると言われています。
- 機械学習
- 認知アーキテクチャ
- 認知ロボティクス
それぞれくわしく解説していきます。
要素①機械学習
機械学習はコンピュータプログラムがデータから学習し、経験に基づいて自己改善するAGI(汎用人工知能)要素のひとつです。通常のプログラムは人間がルールや手順を書き込んで動くところ、機械学習ではデータをもとにパターンや知識を抽出します。
機械学習は大きく以下の3つのアプローチに分かれます。
- 教師あり学習
- 教師なし学習
- 強化学習
教師あり学習はお手本(教師)となるデータを使ってモデルを訓練しつつ予測を行うもので、不良品検知など絶対的な正解がある処理に用いられます。一方の教師なし学習はそのお手本がないため、SNSのレコメンドなど正解がない処理に用いられ、強化学習は「利益の最大化」を目的に意思決定を行うコンピューターです。
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要素②認知アーキテクチャ
AGI(汎用人工知能)要素のひとつである認知アーキテクチャは、人間や動物の認知機能をモデル化するための枠組みやシステムです。実際の人間をはじめとする生物の思考回路や、ものごとを認知するロジックをパターン化し、それをコンピューターに学習させます。
主に認知アーキテクチャは心理学や神経科学、コンピュータサイエンスなどの分野からの知見を統合し、人工知能やロボット工学などの応用分野に影響を与えています。たとえば具体例として、人間の視覚認知を模倣する「ニューラルネットワーク」などが挙げられます。
要素③認知ロボティクス
認知ロボティクスは簡単にいうとAGI(汎用人工知能)要素のひとつで、ロボットをより自律的かつ柔軟に行動させるための研究・取り組みのことです。ロボットが環境を認識・理解し、適応するための能力を開発することを目指しています。
認知ロボティクスの目標は「ロボットに対してより自律的で柔軟な行動を可能にすること」です。たとえばロボットに周囲の状況を理解させ、人間との協調作業を可能にするための技術、また環境の変化や新タスクに適応する学習能力を習得させます。
応用例としては自動運転車や介護ロボット、救助ロボットや工場の自動化などです。これらの分野は環境の変化や人間とのインタラクションが不可欠のため、認知ロボティクスのアプローチが有益とされています。
AGI(汎用人工知能)の実現で得られるメリット
AGI(汎用人工知能)が実現することで、以下のようなメリットがあります。
- 複雑な問題解決が実現
- 生産性向上が可能
それぞれ順を追って見ていきましょう。
メリット①より複雑な問題解決が実現できる
AGI(汎用人工知能)が実現することで、現在の技術では解決が難しい複雑な問題も解決できるようになるでしょう。人間のように幅広い認知能力をもち、さまざまな領域での知識と経験を統合して包括的な解決策を導き出すことができるからです。
たとえば医療分野ではAGIが個々の患者に最適な治療法を提案し、疾病の予防や早期発見に貢献することが期待されます。また気候変動への対応やエネルギー効率の改善など、グローバルな課題に対しても効果的な戦略を提供することが可能です。
メリット②劇的な生産性向上が見込める
生産性の向上が劇的にあらわれることも、AGI(汎用人工知能)実現の大きなメリットとして挙げられます。人間同様の学習能力、つまり「慣れ」を習得できるためです。
たとえば製造業などでAGIが生産ラインの最適化や品質管理をリアルタイムで行えば、不良品の発生を極限まで減らすことができます。サービス業においてもAGIは顧客対応やデータ分析を自動化できるので、人的リソースをより主要な業務に集中させることが可能になるでしょう。
さらに複雑な問題解決能力をもつAGIは経営戦略の立案や市場予測においても重要な役割を果たすので、人間に代わって企業の競争力を大幅に向上してくれると言われています。
AGI(汎用人工知能)の具体例
2024年現在では、AGI(汎用人工知能)の具体例はありません。まだ理論上の概念であり、実際の製品やシステムとしては実現していないためです。
ただ研究や開発に前のめりで取り組むプロジェクトや組織はいくつか存在します。
たとえばChatGPTで有名な「OpenAI」は、人間の知能を再現する汎用的な人工知能の開発を目指し、幅広い研究を行っています。またDeepMindも将来的にAGIにつながる自律的で学習能力の高いAIシステムを研究中です。
ただAGIは極めて実現難易度が高く現時点ではまだ実現していないうえ、いつ実現するかの見通しすら不明なのが現状です。
AGI(汎用人工知能)による懸念点・欠点
メリットの大きい革新的なAGI(汎用人工知能)には実現による懸念点や欠点もあり、想定されるものは以下のとおりです。
- 多くの仕事がなくなる可能性
- 規制をかける必要性
それぞれ見ていきましょう。
懸念点・欠点①シンギュラリティによって多くの仕事がなくなる可能性がある
シンギュラリティとは簡単にいうと「AIの知能が人間と並ぶ、もしくは超える瞬間」のことを指す言葉で、AGI(汎用人工知能)の実現はまさにシンギュラリティの実現そのものです。
ただそれによって従来の多くの仕事が自動化されることから、多くの人間の失業リスクが高まるでしょう。AGIが人間以上の知能をもち、あらゆる種類の作業を学習しつつ効率的にこなせるからです。
さらにシンギュラリティが起こると、労働市場にも大きな変化が生じる可能性があります。一部の業界や職種は急激に衰退し、新たな仕事の創出も必要になるかもしれません。
なお「AIが人間の仕事を奪う」ことへの対策をより詳しく知りたい方は、以下の記事も有益ですのでぜひご一読ください。
懸念点・欠点②新たな規制をつくる必要が出てくる
AGI(汎用人工知能)が実現すれば「新たな規制を作らざるを得ない状況に陥る」とも言われています。人間を超える学習能力に歯止めがきかなくなり、さまざまな問題が出てくる可能性があるからです。
たとえば前述でも述べたような失業リスクをはじめ、個人情報の保護や監視のあり方、自動運転車の安全基準、AIの倫理的な使用などが挙げられます。
AGI(汎用人工知能)まとめ
AGI(汎用人工知能)は一般的に、アニメでいう「ドラえもん」や「アラレちゃん」のような、まるで人間と同じかそれ以上の能力をもつロボットのことを指します。2024年5月現在では「まだまだ実用化は遠い」とされていますが、もし実現すれば私たちの働き方や生活を大きく変えることは間違いないでしょう。
ただ実現化によって「多くの人間の仕事が失われる」「法的な規制が必要になる」など、デメリットや懸念点も存在します。安全かつ便利に付き合っていくとともに、私たち人間自身もその未来に向けAGIには真似できないスキルを磨いていきたいものです。