現代ではAIがじつにさまざまな分野において、多種多様な方法で浸透しつつあります。たとえば特定の事務処理を自動化してくれたり、不良品検知や運転もAIが行うことが当たり前になってきました。
その中のひとつに、囲碁に特化したAI「アルファ碁」というAIが存在します。優れた性能をもつAIであるにもかかわらず、特定分野であることから初耳の方も多いでしょう。
今回の記事では、そんな「アルファ碁」の概要や特徴、強みについて深堀りしていきます。またアルファ碁に用いられている技術の活用例なども紹介します。
アルファ碁(AlphaGo)とは何?
「アルファ碁」とはDeepMind Technologies(Google DeepMind)という企業が運営する、ボードゲーム「囲碁」に特化したAIシステムのことです。囲碁に関して驚異的な強さを持つ人工知能の一つで、2017年に人間の世界的なトップ棋士を破り注目を集めました。
アルファ碁は深層強化学習と呼ばれる機械学習手法を使用し、巨大なデータセットと数百万回の自己対局を通じて自己学習を行うことに成功。その結果アルファ碁は従来の囲碁プログラムをはるかに凌駕する強さを実現しています。
アルファ碁の成功は「AIは複雑なゲームにおいても人間を超える能力をもつ」ことを裏付ける大きな成果として広く認知され、囲碁界隈では誰もが知る存在です。なおアルファ碁の概要を一覧にまとめると、以下のようになります。
システム名称 | AlphaGo(アルファ碁) |
開発元 | DeepMind Technologies(中国) |
リリース日 | 2016年3月 |
アルゴリズム | モンテカルロ木探索 |
機械学習手法 | 深層強化学習 |
実績 |
|
開発・運用はDeepMind Technologies
アルファ碁を開発・運営しているのは「DeepMind Technologies(以下:DeepMind)」という企業です。
DeepMindは2010年に設立されたイギリスの人工知能開発および研究を行う企業で、2014年にGoogleに買収されています。
同社は深層強化学習をはじめとする先端的な機械学習技術の開発に焦点を当てており、その成果は「アルファ碁」や「アルファスター(ゲームAIソフトウェア)」などのプロジェクトで顕著に示されています。
その他にも医療分野やエネルギー管理など、さまざまな領域でのAI活用のための研究を進めています。
会社名 | DeepMind Technologies(中国) |
代表取締役社長 | Demis Hassabis(デミス・ハサビス) |
設立 | 2010年 DeepMind Technologiesとして起業 2014年 Googleによって買収 |
事業内容 |
|
本社住所 | イギリス・ロンドン |
アルファ碁が「囲碁をテーマにしたAI」になった背景
アルファ碁が「囲碁をテーマにしたAI」となった理由は主に以下のとおりです。
- 囲碁はボードゲームの中でも難易度が高いから
- 局面数、情報量が多く深層強化学習やアルゴリズム適用に向いていたから
囲碁はボードゲームの中でもとくに難しくて複雑なものとされていたため、従来のAIが実現できなかった要素を多く含んでいました。そのため「囲碁を制するAI」としてアルファ碁を開発することで、AIの能力を試すという実験的な背景があります。
また囲碁はオセロや将棋と比べても局面数と情報量がとても多く、局面ごとに膨大なパターンから最善手を選択する必要があります。そのため深層強化学習やアルゴリズムを適用するのに向いているという側面もあったようです。
アルファ碁の特徴
アルファ碁の大きな特徴としては、以下の3つが挙げられます。
- 世界一の棋士に勝利している
- 手法には「深層強化学習」が用いられている
- アルゴリズムには「モンテカルロ木探索」が用いられている
それぞれ順を追って解説します。
世界一の棋士に勝利している
アルファ碁の最大の特徴であり、かつ知名度を飛躍的に向上させた出来事が「世界一のプロ棋士に勝利したこと」です。
2017年5月、中国出身の世界トップのプロ棋士「柯潔(か けつ)」氏との対局にて三番勝負のうち3選全勝を収めた偉業が、囲碁界隈のみならず世界に大きな衝撃を与えました。
アルファ碁はそれ以前にも欧州トップ棋士「ファン・フイ」氏を、さらに「韓国棋界の魔王」と呼ばれるプロ棋士「李世乭(イ・セドル)」氏にも勝利を収めており、AIの未来の可能性を大きく広げるきっかけとなりました。
手法には「深層強化学習」が用いられている
アルファ碁には「深層強化学習」という手法が用いられていることも、特徴の一つです。
この手法は機械学習の一種であり、膨大なデータを用いて自己学習を行います。アルファ碁は囲碁のプレイデータや人間の対局データを用いて、何百万もの自己対局を行いながら学習を重ねました。
この過程でアルファ碁は囲碁の戦略や最善手パターンを獲得し、従来の囲碁プログラムを凌駕する強さを発揮するようになりました。
アルゴリズムには「モンテカルロ木探索」が用いられている
アルファ碁はアルゴリズムに「モンテカルロ木探索」が用いられており、これがまさしくアルファ碁の真髄といっても過言ではありません。
モンテカルロ木探索とはランダム性を利用して大局的な探索を行うアルゴリズムであり、囲碁やオセロといった複雑なゲームでよく使われています。
モンテカルロ木探索は具体的にいうと「可能な手の中からランダムに手を選択してシミュレーションを行い、低評価の手を切り捨て、最終的に残った手を最善・最高評価と判断」する仕組みです。
こうして最善手を決定する手順を繰り返し学習することで、アルファ碁は人間を超える強さを実現しました。なお、AIができることに関しては以下の記事も参考になります。
アルファ碁の強み
アルファ碁は囲碁が強いことはもちろん、それ以外の強みもあります。ここでは、以下の2つをご紹介します。
- 目まぐるしい速度で進化を続けている
- 一手パターンの組み合わせが膨大
目まぐるしい速度で進化を続けている
アルファ碁の強みは、その目まぐるしい進化の速度にあります。
開発当初はプロ棋士、まして世界トップに勝つことなど難しいとされていましたが、2016年の李世乭(イ・セドル)氏との対局勝利によってその考えは覆されました。この背景にあるのは、前述した深層強化学習やモンテカルロ木探索などの技術の存在です。
アルファ碁は数々の対局経験から学んだ知識を組み合わせることで継続的に改良が行われ、さらなる強さを示しています。
一手パターンの組み合わせが膨大
囲碁は、19×19の盤上に石を置くというシンプルなルールの中に、数え切れないほどの手が存在します。
従来の機械学習手法ではすべての可能性を探索することは困難でした。しかしアルファ碁は前述の深層強化学習やモンテカルロ木探索の組み合わせによって、億単位の局面を効率的に評価し最善手を導き出すことを可能にしています。
さらにアルファ碁は対局の数に伴ってデータを蓄積させ、さらに局面における最善パターンを増やしていくことが急激な成長につながったのです。
人間の感覚では理解し難いような高度な戦略を展開できるのは、アルファ碁ならではの強みといえるでしょう。
アルファ碁のコア技術「ディープラーニング」の活用例
アルファ碁に用いられるコア技術「深層強化学習」は、いわゆるディープラーニングの学習手法のひとつです。この章では囲碁以外のディープラーニングの活用例を以下のとおり見ていきます。
- 画像やイラストの自動生成ツール
- 各種音声アシスタントツール
- 自動運転サポート技術
画像やイラストの自動生成ツール
ディープラーニングは、画像やイラストの自動生成ツールに活用されています。たとえばオープンソースの画像生成AI技術「Stable Diffusion」ではテキストを入力するだけで瞬時に高品質な画像を作成してくれることから、クリエイティブのシーンにおける活用の幅が広がっています。
「Stable Diffusion」の技術は国内外問わずさまざまなプラットフォームやコンテンツで採用されているため、日本語版「Japanese Stable Diffusion」もリリースされています。
興味のある方はぜひ以下の記事もご一読ください。
各種音声アシスタントツール
各種音声アシスタントツールとは、主に以下のようなものです。
- Amazon「Echo」シリーズ
- Google「Googleアシスタント」
- iPhone「Siri」
- Apple「HomePod/HomePod mini」
これらはディープラーニングアルゴリズムを用いた高精度な音声認識や自然言語処理を行うことで、ユーザーと自然な会話ができたり的確なテキストを返してくれます。
今後ディープラーニングの進化によってより正確性が増したり、応用範囲が拡大することが期待されています。
自動運転サポート技術
ディープラーニングは、いまや当たり前になりつつある「自動運転サポート技術」の発展にも大きく貢献しています。
周囲の状況をカメラやセンサーからの入力情報をリアルタイムで把握し、瞬時に交通状況や障害物を認識する技術は、まさしくディープラーニング技術によって実現されているのです。
ディープラーニング技術は数々のジャンルで進化を続けていますが、中でも自動運転はとくに発展が顕著にあらわれている分野。近い将来「完全無人化が当たり前になる」とも言われており、大きな期待がかかります。
ディープラーニング手法「強化学習」を学ぶならAI研究所!
アルファ碁の基盤となっているディープラーニングの手法のひとつに「強化学習」があります。
強化学習学ぶならAI研究所が運営する、最速で需要の高いAI技術者を目指せる短期集中1DAYセミナー「強化学習プログラミングセミナー」がおすすめです。
カリキュラムでは実務で役立つ部分のみを、完全未経験者に向けたわかりやすい内容に落とし込んでいます。基礎から応用まで実用的な知識が深く学べることから、満足度は約98%を誇ります。
さらにオンラインでも学習可能で、eラーニング講座は35,200円と他のセミナーと比較しても圧倒的な低価格を実現。効率の良い学習を高コスパで実現したい方はぜひご検討ください。
強化学習プログラミングセミナーのスケジュール/お申し込みはこちら
アルファ碁についてまとめ
アルファ碁は中国の企業「DeepMind Technologies」が開発した特化型AIシステムのことです。他のボードゲームの中でも局面数が多く難易度が高いことから、囲碁のをテーマにしたものが開発されました。
アルファ碁は特殊な手法やアルゴリズムによって高度な処理能力を実現しており、世界一の棋士にも勝利を収めるなど大きな実績をもっています。
アルファ碁の基盤となっている「深層強化学習」の技術がさらに発展すれば、私たちの生活が大きく変わることは間違いありません。その変化に応じていくためにも、アルファ碁をはじめとするAIの技術動向に関する情報と向き合っていくことが大切です。