世の中に徐々に浸透しつつあり、私たちの生活をより豊かにしてくれているAI。その裏側では、AIの進化系である「汎用型人工知能(AGI)」という技術の研究・開発が進められています。
今回の記事では、そんな汎用型人工知能の概要や特性、具体例や現場と今後について詳しく解説します。本記事を読むことで汎用型人工知能が理解でき、AIに関する知見をより深めることができるので、ぜひ参考にしてください。
汎用型人工知能(AGI)とは?
汎用型人工知能(AGI)とは、あらゆるタスクや課題を人間のように理解し、それらを処理する能力をもつ人工知能のことです。なお、AGIは「Artificial General Intelligence」の頭文字をとった言葉になります。
いま私たちの生活に浸透している人工知能(AI)は、一般的に特定の課題やタスクに特化したシングルタスク型です。汎用型人工知能はマルチタスクに対応し、かつ自己学習を続けながら自らの判断力を磨いていく、SF映画やアニメに出てくるようなまるで人間と同等かそれ以上のAIのことをいいます。
おおまかに言って汎用型人工知能(AGI)とは、私たちの生活に馴染みのある一般的な人工知能(AI)をより進化させたものといった認識で差し支えないでしょう。ただ、2024年4月時点ではまだまだ研究段階で、実用化には至っていません。
そもそもの「AI(人工知能)」とは何かをに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になるので、ぜひご一読ください。
汎用型人工知能(AGI)の特性・できること
汎用型人工知能は人間のように、さまざまな知的タスクを柔軟に学習して実行する能力をもっていることが特徴です。人間がもつ思考力と判断力、そして学習能力をもっているので「人間にできることの大半はできる」と考えて差し支えないでしょう。
例を挙げると、以下のようになります。
- 普段の業務タスク、自動化しにくい複雑な事務作業や書類作成
- 業務連絡、メールや電話、オンラインミーティング対応
- イラスト・音楽・アートなどのクリエイティブ制作
- 研究分野、高度なデータ分析・推論、新しい理論の提案などの
- その他多数
そして汎用型人工知能は使っていくごとに課題を見つけ、それを自ら修正しつつ精度を上げていく思考力や判断力があります。すなわち人間の成長のように時間が経つごとにできることが増えていくので、いずれは人間の能力を超えることも期待(危惧)されています。
AGIを構築している要素
AGIを主に、以下の要素から構築されています。
- 機械学習
- 認知アーキテクチャ
- 認知ロボティクス
この章では、上記それぞれ順を追って解説します。
機械学習
いま私たちの生活に浸透している一般的な人工知能(AI)で必須となっている機械学習は、汎用型人工知能においても例外ではありません。汎用型人工知能においては、機械学習は主に「学習するフェーズ」で役立てられています。
失敗も成功もすべてデータとして蓄積し、そのデータに基づく正確な比較や条件分岐を繰り返し最適な言動を実現しているのです。具体的にいうと「ディープラーニング」の技術が用いられています。
ディープラーニングとは、通常のAIの処理よりさらに複雑なパターンや表現を学習するための機械学習の手法。分析に複数の層(ニューラルネットワーク)を使うのが大きな特徴で、複雑な概念や特徴を学習できることから音声認識、画像認識、自然言語処理の分野で高度なパターン認識やデータ解析を実現しています。
なお、ディープラーニングについては以下の記事でも詳しく紹介しています。
認知アーキテクチャ
認知アーキテクチャは人工知能システムや認知科学の分野で使用される概念のことです。汎用型人工知能においては、「人間の認知機能を模倣し、理解しようとする仕組み」をAIに学ばせるといった目的で活用されています。
わかりやすく言うと「人間がモノやヒトを認知する仕組みはこんな感じ」のようにパターンを見つけ出し、AIに記憶させるといった具合です。そのため認知アーキテクチャは、あたかも人間のような振る舞いを行える汎用型人工知能にとって欠かせない概念になります。
認知アーキテクチャは脳科学や心理学からの知見に基づいて設計されており、人間のような知的行動を模倣することを目指しています。
認知ロボティクス
認知ロボティクスは「ロボット工学」と「認知科学」を組み合わせた研究分野のことで、ロボットに人間のような知的行動や認知能力をもたせることを目指しています。
汎用型人工知能は必ずしも人間やロボットのような見た目をしているとは限りません。アーム操作のみのものだったり、単にシステム上で動作するだけのものもあるでしょう。
そんな中あえて汎用型人工知能においては、ロボットの姿で開発・研究を重ねることで、
- シンボルグラウンディング問題の解決につながる
- 人間とのコミュニケーションをより高め、より精度の高い汎用型人工知能が作れるようになる
といったメリットがあります。
「シンボルグラウンディング問題」とは、簡単にいうとAIが聞いたことがない単語と見たことがない対象のイメージの関連付けができない問題のことです。
認知ロボティクスの研究では、視覚や触覚などのセンサーを用いて環境を認識する技術、人間のような学習や推論を行うための機械学習アルゴリズム、そして認知アーキテクチャや意思決定アルゴリズムの開発などが含まれます。
これにより、ロボットは複雑な環境で柔軟に行動し、人間の協力を受けながら作業を遂行することが可能となります。
汎用型人工知能(AGI)が実用化されている具体例
汎用型人工知能は2024年4月現在ではまだ研究・開発段階のため、まだ実用化されていません。とはいえ現在、汎用型人工知能の片鱗を見せているシステムとして、アメリカのOpenAI社が開発した「ChatGPT」が挙げられます。
ChatGPTはあくまで「文章生成に特化したAI」ということに変わりはありませんが、その適応ジャンルの豊富さと精度の高さ、処理の速さはもちろん最新モデルの「GPT-4」では高精度な画像や音楽などのクリエイティブ生成も実現しています。
ただ物理的な人間型ロボットのような振る舞い(料理を作る、電話やオンラインチャットに対応するなど)ができるわけではないため、実現にはまだまだほど遠いというのが現状といえるでしょう。
汎用型人工知能が実現すればコンピューター上におけるコンテンツの自動生成のみならず、物理的な人間型ロボットによる作業も日常化し、人間の仕事に大きな変革をもたらすと期待されています。
汎用AIと生成AIの違い
汎用AIと生成AIのもっとも大きな違いは「アイデアを自分で考えて生成できるか否か」でしょう。
汎用AI(AGI)は、人間と同等またはそれ以上の知能をもつ人工知能の理想形です。あらゆる種類のタスクを自らの経験に基づき、自らの力で考えて処理できる柔軟性をもつなど、まるで人間と遜色ない振る舞いをしてくれます。
一方の生成AIは、既存のデータや規則に基づいて新しい情報やデータを生成してくれる人工知能(AI)の一種です。ひとつのタスクに特化した「特化型AI」として画像や音声、テキストを生成してくれるものが存在します。
両者の違いを一覧にまとめると、以下のようになります。
できること | 具体例 | 実用化 | |
汎用AI | 分野を問わないあらゆる種類のタスクを自らの経験に基づき、自らの力で処理・判断できる | ドラえもん ベイマックス 鉄腕アトム |
開発・研究段階(2024年4月現在) |
生成AI | テキストや画像、音声など特定の分野にて、既存データに基づくデータを新規生成できる | 画像自動生成ツール 文章生成ツール 文字起こしツール |
実用化されている |
なお生成AIについては以下の記事も参考になるので、興味のある方はぜひご一読ください。
「強いAI」・「弱いAI」とは
この章では、汎用型人工知能の理解に欠かせない概念「強いAI」と「弱いAI」についてご紹介します。
強いAI
強いAIとは、人間と同等またはそれ以上の知的能力をもつ人工知能です。本記事で紹介している汎用型人工知能がまさにそれに該当し、例としてはドラえもんや鉄腕アトムのようなものが挙げられます。
実用化はされていないもののさまざまな認知タスクを実行し、抽象的な問題解決や創造性をもつことが期待されます。また、自己意識や感情などの高度な人間の特性をもつ可能性もあるでしょう。
弱いAI
現段階であらゆる業界や生活に浸透している、私たちにとっても身近なAIがこれに該当します。
特定の任務やタスクに特化しており、限定された範囲の問題を解決する能力をもちますが、特定タスク以外のことはほぼ何もできないのが特徴です。
代表的な弱いAIにはスマートスピーカー、自動運転技術、将棋ロボットなどがあります。
汎用型人工知能(AGI)の現状と今後
現時点における、汎用型人工知能と現状を今後を見ていきましょう。
汎用型人工知能(AGI)の現状
現状では日々、あらゆる研究者や企業が汎用型人工知能の実現に向け、研究・開発を重ねています。しかしながら、まだ「汎用型人工知能の実現の日は近い」とは言えないでしょう。
完全な汎用型人工知能の実現には、多くの課題が残されているためです。根本的に人間のような柔軟な学習能力が実装できなかったり、複雑な問題解決や判断力の再現が難しいことが挙げられます。
汎用型人工知能(AGI)の今後
ChatGPTの技術力を皮切りに、今後より優れた人工知能が登場することは確実といえます。
ただ優れた技術の人工知能が浸透するほど、たとえば「その技術の悪用を防ぐための規制」が必要になるなどさまざまな問題も生じてくるでしょう。また技術が人間の能力を超えてしまうと、新しい働き方や職種が登場するだけでなく、人間の退化による問題も出てきます。
汎用人工知能の実現はまだ遠いと前述しましたが、現代のAIの技術革新は目まぐるしいことも間違いありません。上記のような問題と向き合い、人間と人工知能と共存していくことが求められるでしょう。
汎用型人工知能(AGI)まとめ
汎用型人工知能(AGI)とは、あらゆるタスクや課題を人間のように理解し、それらを処理する能力をもつ人工知能のことです。いわゆる特化型のAIとは異なる「強いAI」として分類されるため、まるで人間のような判断や振る舞いができるとされています。
もし汎用型人工知能の実用化が実現すれば、これまでAIが実現できなかったさまざまな「人間が行うタスク」を自動化でき、圧倒的な生産性向上が期待できるでしょう。
汎用型人工知能の開発や研究に打ち込む企業は、国内外問わず以前にも増して増え続けています。今後も汎用型人工知能の進化動向から目が離せません。
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